下記のような法律があります。この法律は強行規定ですので、契約書の記載事項よりも優先されます。
〇借地借家法第32条1項
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
〇賃貸用住宅の稼働率
国土交通省発表の平成25年住宅・土地統計調査結果によると、平成25年時点における全国での空き家率は13.5%、つまり10件(戸)中、1~2件(戸)は空き家となっており、更に空き家の内訳をみると、賃貸用の住宅が52.4%と過半を占めています。都心部と郊外など地域的な隔たりはありますが、全国の大家は、保有物件の稼働率をいかにあげるか、または維持するかということを常に考えています。
入居時は新築だったとしても、更新の時期においては、必ず中古物件になっています。築浅であっても新築プレミアムは剥げ落ちています。上記稼働率のとおり、賃貸物件は供給過多なので、より駅に近く、より新しい物件の競争力が高くその逆は低くなります。このような不動産市況の中、一旦入居者に退去されると次の入居者がはいるまでの入替期間が長期化する傾向にあります。大家としてはこれが一番避けたいことなのです。
〇契約更新のタイミングを逃すな
引っ越しをしない限り、大半の入居者が法定更新による更新をしています。法定更新とは契約を解約しない場合、従前の契約内容と同一条件で契約を更新したとみなされます。借地借家法第32条1項のとおり、賃料値下げの理由があれば、同一条件で契約を更新するべきではなく、賃料改定を申し出るべきである。面倒くさいし交渉事は嫌かもしれないが、仮に賃料が1万円下がれば、2年更新を前提にすれば、24万円もの差額が発生する。学生や若いサラリーマンにとっては無視できる金額ではありません。
〇管理会社に提示する値下げの根拠資料を作成する
契約の始期から更新の時期までの間に下記要因について変動しているかを調査します。契約の始期とは前回の更新時期のことではなく、現在の賃料が確定した時期をいいます。
①租税(固定資産税、都市計画税)の負担の増減
平成15年度の税制改正により、借地人や借家人についても固定資産税課税台帳の閲覧が認められました。固定資産税や都市計画税算定の基礎である課税標準も確認できます。課税標準額が下がっていれば賃料減額の根拠資料になります。
②固定資産税路線価の推移
全国地価マップより、固定資産税路線価の推移をしらべることができます。調べ方は「不動産屋に頼まずに自分で土地を査定する」を参照してください。
③建物の償却
契約の始期から更新の時期までに建物価格がどろのくらい償却しているかは「家屋の評価にある「②経年減点補正率」の求め方」を参照してください。
④土地または建物価格の上昇若しくは低下
契約始期時点の土地価格と建物価格は「不動産屋に頼まずに自分で土地を査定する」と「不動産屋に頼まずに自分で建物を査定する」を参照してください。
⑤経済事情の変動
賃料に影響を与える経済要因としては下記のものがあります。
・公租公課
契約始期の指数を分母に更新時点の指数を分子に配置することで変動率として求めることができます。
⑥近傍同種の建物の借賃
下記ポータルサイトから検索する。
条件の絞り込み機能で、駅距離、築年、面積などの条件が類似する募集事例を探す。
説得力が高いのは、同一建物内での募集事例があればそれを採用する。
以上を調査し、レポート形式に纏めれば、それなりの資料を作成することが可能です。
不動産業者は主観や雰囲気で相場観を話す傾向にあり口も上手なので、きちっとしたエビデンスを準備することで、反論できないように準備しておくことが大事です。
契約の更新時期(バブルやプチバブル時代など一時的に賃料が高騰している時期)にもよりますが、基本的には上記の資料を整理すれば、賃料を値下げする要因が顕在化される可能性が高いはずです。
どの程度値下げできるかは、最終的に落としどころを交渉の中で決めますが、引っ越した場合に発生する費用との兼ね合いから、妥協できる点を自分で決めて交渉すると判断が明確になります。