建築年月の古い建物で、複数人で土地建物を共有にしている不動産において、相続や共有部分の売却等を通じて、元々、建物共有者が土地も同じように共有していたものが、いつの間にか、一部の建物共有者が土地の権利を有しない状況になっているケースがある。
下記の図のようなパターンが該当する。ABが土地建物を共有していたのが、相続や権利移転に伴い、建物ACの共有、土地はAの単独所有となっている。
※Aは個人、Bは法人、CはB法人の代表取締役
土地部分だけをBがAに譲渡したものの、建物の共有部分の権利は移転せず、B法人の代表取締役Cに権利移転している。
Cは建物共有部分を有するものの、土地の権利がない状況にある。過去からの経緯で現時点においては、AC間の関係が良好であるため、Aから土地の使用料等の話はなく、使用貸借になっている。
この状況を放置しておくと後々問題が生じる可能性が高い。仮に、Cが亡くなり、Cの子供であるDが相続したとしよう。
その相続人Dが悪意の不動産業者Fに建物共有部分を売却した場合は最悪である。
一般の消費者からみると、土地に権利のない不動産業者Fの建物共有部分は市場価値がないようにみえるからである。担保価値もなければ、市場に出しても誰も購入しない。もちろん、FはDからタダ同然で購入している。
しかし、仮にAが権利関係の不安定な状況を解消しようと、若しくは、駅も近く立地条件が良い為、マンション等に建て替えをしたいなどと検討した場合に問題が顕在化する。
Aが不動産業者Fの共有持分を取得しようとする場合、不動産業者Fは市場価値を著しく上回る対価を要求するのである。立ち退きでよくある話のひとつではなく、この不動産業者Fの一見不当に見える要求には合理的な根拠がある。
この土地建物の現状での市場価値を検証してみる。
Aの共有持分:
共有持分の市場価値は低い為、市場性修正として概ね30%程度の減価要因となる。
土地価格+(建物価格×Aの共有割合)×70%=Aの価格
Fの共有持分:
Fの共有持分は土地の権利を伴わない不安定な権利の為、市場価値は更に低くなり、市場性修正は50%程度の減価要因になる。
(建物価格×Fの共有割合)×50%=Fの価格
現状での市場価格は、この市場性修正を織り込んだ低廉な価格になってしまう。
土地建物全体の価格=Aの価格+Fの価格
Fの共有持分を取得できた場合、Aの不動産に対する権利は完全所有権に回復しているため、現状の市場性修正を伴わない価格が実現する。また、完全所有権であるから、既存の古い建物を取り壊し、立地条件に見合ったマンション等の建築も可能となり、市場価値は更に高くなる。
現状の価格(Aの価格+Fの価格) < Aの完全所有権の価格
完全所有権の価格-現状の価格=市場価値の回復部分
この市場価値の回復部分を不動産業者Fは要求するのである。
不動産業者FはAにこのロジックを説明の上、「この回復部分を寄越さない限り売りません」と言うのである。
あとは、どこまで回復部分の価値をFの共有持分に乗せるかという問題に移る。
このような物件は地価の高い都心部で問題となるケースが大半である。なぜなら、地価が高い都心部では、この市場価値の回復部分が高額になるからである。仮に中央区銀座の中央通りや並木通り沿いにこのような物件があった場合を想像して欲しい。相場で坪1億以上の地域で実現する市場価値の回復部分はもちろん億を超えることになるからである。
このような共有状態にある不動産を所有している場合は要注意である。今はまだ共有者間の人間関係は良好なのかもしれない。であれば、人間関係が良好な内に、権利関係を整理しておくことが重要になる。いつの間にか、面識のない第三者が共有者になっていることがないように。
民法206条
「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」
※上記所有者には「共有持分の所有者」を内包する。