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ブルーオーシャン!離島不動産への投資は可能か?

内地の不動産市場はレッドオーシャン

 

 日銀総裁が交代することで、金融引き締めの方向に金融政策を変更するのではないかといわれていたが、金融緩和政策を継続することが確認された。不動産マーケットは緩和的な金融政策を背景に、個人、投資家、不動産業者等による積極的な投資姿勢が継続されており、都心部を中心に不動産マーケットはレッドオーシャン化している。コロナ渦の影響によるインバウンド需要の低減、リモートワークの普及により、ホテル、オフィス等特定のセクターにおいて稼働率の低下等も見られたが、これも時間の問題でいずれコロナ過前の水準に回復するものと思われる。住居等の実需の需要は旺盛で、住宅地域の地価は上昇傾向を示している地域が大半である。リモートワークの影響から、広い間取りを指向する傾向から、郊外の住宅地域が見直され、在庫不足になるほど需要が旺盛な地域もある。不動産投資に対する需要も旺盛で、レインズ等に掲載される物件は市場より高目の残留物件を覗いては、掲載物件も少なく、市場で表面化する前に、相対で取引が決まっているケースも多いようである。

 個人を中心とする一般の投資家は、健美家等の不動産サイトで物件を検索するのが中心になるが、利回りは立地条件によっては表面利回りで2~3%のものも散見され、最早REITへに投資の方が効率的な状況にある。

 

 このような市況化にあっても、今後のインフレ等を見据えると、資産の一部を不動産で所有する傾向は変わらないというか、投資熱は上がる可能性さえある。

 

 固定金利は上昇傾向にあるが、変動金利は現時点(2023/07)では0.3%台と低い状況にあり、住宅ローンにおける変動金利の割合は70%を超える水準に増加している。変動金利の上昇が市場に与えるインパクトは想像に難くない。バブル経済の崩壊、リーマンショックによる金融危機から住宅ローンが不良債権化した当時を想起させるものがある。不良債権の増加は不動産市場においては供給過多になるため、不動産価格の下落要因となる。

 

 市場の将来予測は不可能であるが、インフレによる物価上昇、金融資本市場の動向次第では、上昇の可能性も下落の可能性も否定できない。

不動産のランチェスター戦略

 今の不動産マーケットは最早「ババしか残ってない」可能性さえある。このようなマーケット下、低金利を背景にあえて投資に向かうか、市場の様子見に回るかだが、あえて、誰も見向きもしなかった市場へ挑戦するという選択肢もある。そのひとつが離島への不動産投資である。

離島不動産はブルーオーシャンなのか

 日本には14,120の離島があり、内人が住んでいる有人離島は256島(全体の約2%)しかない。かつ人口が1万人を切るような島では、登録している不動産業者もないなか、相対取引等の個人間売買が中心であり、不動産市場が成立していないため、市場価格(相場)がないのが実情である。以下では、人口1万人以下、不動産業者が存在しない東京の離島である小笠原村の実情について検討してみる。

小笠原村の概況

島内の状況については、東京都小笠原支庁のHP内に管内概要が掲載されている。

 

要約すると下記のとおり

 

・人口 2,581人(令和5年1月時点、内父島2,132人、母島449人)

人口の特徴としては、村内には自衛隊、海上保安庁、環境省、都の支庁等の官公庁が集中していることから、公務員の割合が他の離島に比べて高いため、年度末等の人事異動の時期になると一時的に人口が減少することもある。

 

 村内には大学や専門学校がないことから、高校を卒業すると内地に就職、進学するケースが大半で、そのまま内地で定職に就き、定住するパターンが大半。

観光客の推移

 平成23年6月に世界自然遺産登録などの影響もあり、令和元年までは年間約3~4万人程度と着実に推移していたが、令和2年以降は新型コロナウイルスの影響により、来島自粛要請、定期貨客船であるおがさわら丸の乗船制限等の影響により、一時期半減した。

主要産業

 観光、漁業、農業が主要な産業であるが、売り上げの7割程度は第3次産業となっており、観光業がメインである。

不動産マーケットの状況

 不動産業者がいないため、不動産取引は相対による個人間売買が中心になっている。島内は国立公園に指定されているエリアや世界自然遺産に指定されているエリアも多く、簡単に用地を増やすことができないため、可住できる宅地の稀少性が高く、公示価格や固定資産税評価額の水準を著しく上回る取引価格もある。

 

 内地の離島不動産を得意としている不動産業者でも、小笠原村に精通している業者は限られている。

 

理由としては

・内地からの交通アクセスが定期船の「おがさわら丸」に限られている

※ドッグ期間中は「さるびあ丸」が運航しており、ドッグ期間中の孤島状況は解消されている。

・片道24時間を要し、シーズンオフの期間はほぼ1週間に1便しかないため、移動時間を含め、最低でも1週間の滞在になってしまう。

・海の状況次第では、船が出航できないこともあり、その場合は滞在期間が2倍になる。

・離島にあるため、建築コストが内地の2倍以上。

※昨今の建設コストの上昇に加え、離島ならではの事情(人材不足、輸送コスト等)により、建設コストはかなり高騰している。

 

 以上のことから、日本の反対側にあるブラジルの方が移動時間は少なくてすむという状況の為、旅行先としても移住先としても簡単には選択できない。

小笠原村のメリット

それでも、あえて小笠原村の不動産のポテンシャルの高さの理由は下記のとおり

・世界自然遺産登録されているほどの稀少な自然資源

・船で24時間かけないと行けないという秘境感

・空港建設の可能性

 小笠原村にとって、空港建設は長年の悲願といえる。現状の移送負担の軽減に加え、村内には診療所しかないため、緊急を要する急患等の対応は、自衛隊の輸送機に依存しているのが現状。観光業の起爆剤になるとともに、生活環境の向上の面からも、飛行場の建設が切望されている。

 

 東京都のHP内に「小笠原航空路協議会」のページがあり、導入する航空機の選定、自然環境調査、投資採算性等が検討されている。現状は具体的な進捗はみられないため、不動産マーケットには影響がでていない。

売物件には要注意

 たまに、山林等の販売情報を不動産業者のサイト等でみることもあるが注意が必要。先にも触れたように、島内は大半が国立公園に指定されており、世界自然遺産にも登録されているエリアも多いため、開発はほぼできないとみていい。また、稀少な動植物を保護する目的で、資格を持ったガイドを同伴しないと入れないエリアもあり、自分の土地でさえ勝手に出入りできない可能性がある。所有していても、所有しているだけとなってしまう可能性さえあるため、綿密な行政調査を踏まえない限り、検討すべきではない。

競売物件なら可能性あり

 件数は多くないが、たまに不動産競売物件情報サイト(BIT)に掲載されていることもる。父島の主要地域である東町や西町の物件が掲載されていれば検討の価値はありだが、競売に不慣れな場合は、専門業者に相談した方が無難。

民泊の需要は無限大

 小笠原諸島はクルーズ船の寄港地になっている。何度も触れるが、世界自然遺産に登録されている魅力的な自然資源、船で24時間かけないと行けない秘境感等、世界的にみても魅力的な観光地である。しかし、令和4年度時点の宿泊施設件数は、父島母島あわせて100に満たない状況から、今後増大が見込まれる観光客の受け入れキャパに限界が生じる可能性もある。島内には、内地に定住している元村民が、親からの不動産を相続したものの、空き家にして放置している可能性もある。共同住宅は先にも触れたように、建築費が高水準であるため投資採算性が悪く、公共による住宅団地等の供給、民間の場合は社宅用に建設された共同住宅が転用されているケース等に限られる為、ほぼ稼働率100%、賃料も内地と変わらない高水準の状況。

 

 宿泊施設数の少なさ、賃貸物件の需給が逼迫している状況下、インバウンド等の観光客の増大が見込まれるため、民泊の需要は強いと思われ、空き家等の所有者は検討の価値がある。但し、民泊といえども不動産の管理は必要になるので、このようなマーケットを開拓する不動産業者が小笠原村で起業することが望まれる。というか、このようなマーケットがまだ日本に残されているのかという感さえある。

国境離島の今後

 重要土地調査法が令和4年に施行された。

 これは国境離島にある重要施設(主に防衛関係施設等)の周辺の土地を売買する時には、届出して下さいねという法律。場合によっては、国が買い取ります。要は購入者の属人調査次第では勝手に売ることはできないという、諸外国ではよくある法律であり、日本でもやっと施行されたんだなという感じ。

 

 有人国境離島法が平成29年に施行された。

 これは国境離島の重要性から、人口の定住を図る目的で、雇用を生むような事業を起業する場合には、最大で1600万円の補助金を国と地方公共団体が支給しますというもの。

 

 上記のような法律がたて続けに施行されている背景には、国防や経済の面から広大なEEZを守るという国の姿勢が垣間見える。

 

 以上を踏まえると、今後ますます重要度の高まる国境離島の不動産業は、内地と異なる意味で重要なプレーヤーとなることが見えてくる。島で活躍するチャンスかもしれない。