昭和37年に制定された建物の区分所有等に関する法律(通称:マンション法)は、昭和58年に改正が行われている。便宜的に昭和58年改正以前の法律が適用されたマンションを旧法マンション、改正後のマンションを新法マンションという。
マンションの価値に大きな影響を与えた改正が22条の追加である。
(分離処分の禁止)建物の区分所有等に関する法律第22条1項
敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
規約等により例外も認められるが、原則的には、マンション一室を売買した場合には、マンションの敷地権(土地の共有持分)も建物に付随して権利が移転する。これを分離処分の禁止といいます。
旧法マンションにはこの条文がなかったため、意図的か瑕疵かは別として、建物だけ、または土地の権利だけが売買されるケースもありました。
つまり、土地の利用権限がないマンション、イメージとしては、空中に浮かんでいるマンション一室の権利が存在することになります。
このような敷地権のないマンションがあると困るのは他の住戸の居住者です。
ある意味、自分の敷地を勝手に利用されているのに等しいからです。
そこで、他の敷地権を有する権利者に対して、区分所有権売渡請求権が認められています。
(区分所有権売渡請求権)建物の区分所有等に関する法律第10条
敷地利用権を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。
また、区分所有権売渡請求権は形成権に該当する為、例えば管理組合から敷地権のないマンション所有者に対して、書面や口頭により一方的に法律効果(売買契約)を成立させることができる権利になります。
では、敷地利用権を有しないマンションの評価はどの程度になるのか。
敷地利用権を有しないマンションの所有者に対し、敷地利用権がないからといって、建物を収去し土地を明け渡すよう請求することは事実上不可能に近いため、収去されないことの反射的利益(場所的利益)を認めるのが、評価上一般的です。
この場所的利益がどの程度になるのか、敷地利用権を有しなくなった背景等も重要になると思われますが、評価上は土地価格の10~20%で査定されています。
つまり、敷地権のないマンションの評価方法としては、次の通りです。
①マンション一棟の積算価格を求める
②階層別、位置別効用比率から配分率を求め、積算価格に乗じて、対象住戸の積算価格を求める
③マンションが建っている状態の土地価格を求める。マンションが容積不消化等により最有の状態にない場合は減価が必要
④土地価格に配分率及び場所的利益(10~20%)を乗じて対象住戸の土地価格を求める
⑤対象住戸の建物価格と土地価格を積算する
⑥担保不適格、市場流通性等の考慮し更に市場性修正率により減価するケースもある
{(一棟の積算価格 × 配分率) + (土地価格 × 場所的利益)} × 市場性修正率
上記により求められた価格と、同一マンション内の他の住戸の販売価格等を比較考量し、妥当性の検証を加える。
敷地権のないマンションはほとんど市場に出回ることはないかもしれませんが、稀に競売物件等を通じて市場に流通されるケースもあります。