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収益還元法(直接還元法)とは

 

不動産鑑定評価基準によると収益還元法とは

「対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である。この手法による試算価格を収益価格という。

とあります。

 

維持管理や大規模修繕を適切に行うことで半永久的に純収益が持続するという判断なら、純収益の無限等比級数の和ということになります。経済的には50年しか存続しないという判断なら、50年の純収益と50年後の土地売却価格の有期還元ということになります。

 

〇収益価格を求める手法

 

・直接還元法:1期間の純収益を還元利回りによって還元する方法

 

・DCF法:複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、発生時期に応じて現在価値に割引、それを合計する方法

 

DCF法は証券化不動産の鑑定評価に当たっては、適用しなければならないとされています。

投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求めるため、DCF法を適用することになります。

理論的には直接還元法とDCF法の収益価格は一致します。

  

 

直接還元法のロジックについて説明します。

 

〈計算式〉

純収益 ÷ 還元利回り = 収益価格

 

・純収益とは 

運営純収益 + 一時金の運用益 - 資本的支出 = 純収益

 

・運営純収益とは

運営収益 - 運営費用 = 運営純収益

 

・運営収益とは 

貸室賃料収入 + 共益費収入 + 水道光熱費収入 + その他収入(看板、自販機、アンテナ設置収入等) = 運営収益

 

・運営費用とは

維持管理費 + 水道光熱費 + 修繕費 + プロパティマネジメントフィー + テナント募集費用

 + 固定資産税・都市計画税 + 損害保険料 + その他費用

 

・一時金の運用益とは

敷金(保証金)の運用益 + 礼金(権利金)の運用益及び償却額

※運用益はどのように運用するかによります。金融機関に預けるのであれば相当低い設定になります。

※償却額は回転期間によります。退去まで4年であれば年間1/4を償却します。

 

・資本的支出とは

大規模修繕費のこと。日常的な修繕や取り換えにかかる費用は損金処理となる費用で、大規模修繕費は資本的支出となり減価償却の対象となります。

 

・還元利回りとは

一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。

 

銀行の預金金利と預入額の関係からイメージできます。

100万円を年利1%で預金すると運用益は1万円になります。

不動産に例えると、100万円の投資用マンションを賃貸すると年間の運用収益が1万円になるという関係です。

 

純収益 ÷ 還元利回り = 収益価格

収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り

預金する際に、特別な運営費用は発生しないため、運営収益=純収益という関係になります。

あてはめると

1万円 ÷ 1% = 100万円

 

 

〇還元利回りを求める方法は

 

・類似の取引事例との比較から求める方法

対象不動産と類似の不動産の取引事例から得られる還元利回りをもとに求める方法です。

J-REITの鑑定評価書概要は公開情報になっているので、各ファンドのサイトから利回り事例を収集することも可能です。

小規模な物件については、還元利回りの公開情報が少ないのでグロスの利回りから推定します。

 

・土地と建物等に係る還元利回りから求める方法

土地価格 × 土地の還元利回り + 建物価格 × 建物の還元利回り

この手法は土地建物の積算価格を別途算出する必要があります。

建物の還元利回りは土地の還元利回りに建物の償却率を加算して求めます。

 

・借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法

借入金割合 × 借入金還元利回り + 自己資金割合 × 自己資金還元利回り

借入金還元利回りは元利均等償還率、割合や自己資金還元利回りは個別的に判断します。

 

・投資家等の意見等による方法

投資家等市場参加者へのヒアリング結果に基づく公表資料や直接ヒアリングすることにより、市場の水準を把握する方法。

公表資料は日本不動産研究所等が定期的に発表しています。

〇ケーススタディ

 

杉並区東高井戸駅徒歩5分にある、築20年の賃貸マンション。

全9室、月額平均賃料は15万円、駐車場は屋内に5台

礼金敷金はない

運営費用は提示資料により運営収益の25%

還元利回りは取引事例及びヒアリングより4.5%だが、対象不動産の築年数を考慮して4.7%(スプレッド+0.2%)と判断

 

・賃料収入 : 15万円 × 9室 × 12ヶ月 = 16,200,000円

・駐車場収入: 3万円 × 5台 × 12ヶ月 = 1,800,000円

・運営費用 : (16,200,000円 + 1,800,000円) × 25% = 4,500,000円

・純収益  : 16,200,000円 + 1,800,000円 - 4,500,000円 = 13,500,000円

 

収益価格  13,500,000円 ÷ 4.7% = 3億円

〇収益価格シート

収益還元法